鮮度・品質保持実証実験|うまい大阪産を消費者へ

 

┃ 魚は死ぬとどうなるの?

(1)死後硬直

筋肉中の成分が分解し,次第に死後硬直が始まります。魚種により死後硬直のタイミングは異なり,硬化するまで死後数分から十数時間かかり,持続が5~22時間かかるとされます。完全硬直するまでを「活き」の状態と呼び,市場価値が高く取引きされます。

 

(2)解硬

硬直が完了した後に最も筋肉が固くなり,その後硬直が解け軟化していきます。魚肉は特に解硬と同時に生化学反応が速やかに起こり,軟化しやすいです。

 

(3)腐敗

死後硬直や解硬と並行して,増殖する微生物の酵素作用によって,腐敗が進行していきます。色沢の劣化や異臭,異味,有害物質の生成などがあります。

 

(4)ATPの消失

魚介類の筋肉中にはエネルギー源として利用されるATP(アデノシン三リン酸)が含まれています。しかし,死後はその再生回路が働かなくなるためにATPは減少して消失します。ATPは,分解され式(1)に挙げられる分解経路をたどって分解されます。

 

①魚 類

ATP → ADP → AMP → IMP → HxR → Hx

②軟体動物

ATP → ADP → AMP → AdR → HxR → Hx

 

※ATP…アデノシン三リン酸,ADP…アデノシン二リン酸,AMP…アデノシン一リン酸,IMP…イノシン一リン酸,AdR…アデノシン,HxR…イノシン,Hx…ヒポキサンチン

 

┃ 魚の鮮度を長く保つ工夫

魚介類は,鮮度落ちが早く,いったん鮮度が低下すると,いかなる手段でも,これをもとの新鮮な状態に戻すことができません。そのために,できる限り鮮度を長く保つことができるように様々な工夫がされています。
魚の鮮度保持の基本は,漁獲後の死後変化の進行をできる限り抑えることです。

致死方法

漁獲後に即殺した魚は,死後硬直までの時間が長くなり,硬直の持続時間が長くなるために,自己消化が遅れて,腐敗に至るまでの時間が長くなります。そのため,一本釣りによる漁獲法や,苦悶死させずに延髄刺殺などによる即殺が望ましいとされます。

 

┃ 魚の鮮度をどうやって測るのか?

鮮度(freshness)は消費者にとって重要な購入因子となるために,古くから多種多様な鮮度判定方法が考案されてきました。いずれの評価指標も完全なものはなく,複数の評価を用いて総合的に評価することが望ましいとされています。鮮度判定法を大別すると,官能的方法,化学的方法,物理的方法,微生物的方法などがあります。

下図は,鮮度判定法の一覧と,本プロジェクトで用いている鮮度判定法を示しています。

 

 魚の鮮度を測定する指標として代表的なものが,K値(K value)です。K値はATPの分解過程を指標としたものであり,ATPからHxまでの全分解物量に対するHxR(イノシン)とHx(ヒポキサンチン)の百分率で表されます。値が小さいほど新鮮であるということを示しています。

 

 

┃ 西鳥取漁港内 鮮度保持実証実験施設

阪南市内の西鳥取漁港内に実験施設を設けて,鮮度保持の実証実験を行っております。阪南市内の3漁港(尾崎,西鳥取,下荘),堺市の堺市出島漁港から水揚げされた魚介類を用いています。

下図,左上は外から見た実験施設,右上は実験の様子,左下はK値の測定で用いる鮮度チェッカー(QS-Solution社製),右下は実験施設内部です。

 

 

┃ サワラはいつまで生で食べられるの?

簡易測定法の結果より,サワラのK値が20%未満であれば生食可能であり,その値に至るまでに要する期間は漁獲後8~9日と,鮮度低下が緩やかであるということが明らかになりました。サワラは鮮度が短期間で落ちやすい魚であると一般的に知られており,今回の結果はサワラの生食持続期間への認識を覆す端緒となると考えられます。


(大北茉由,2017年度大阪府立大学卒業論文)

本プロジェクトでは,サワラ以外にもアカシタ,マダイなどの科学的な鮮度評価を行っております。

サワラの旬や豆知識を紹介「デジタルカタログ」
アカシタの旬や豆知識を紹介「デジタルカタログ」

 

┃ 大阪泉州産「泉だこ」と明石産「明石だこ」はどう違うのか?

 一般的に,明石灘で育つ「明石だこ」は潮の流れが速いために,身が引き締まってコリコリしているといわれ,大阪湾泉州沖で育つ「泉だこ」は潮の流れが緩いために,柔らかくうまみがあるとされています。この両者の違いを破断強度および官能検査により,科学的に評価を行っています。

 

 

 

 

┃ 参考文献

  1. 小関聡美・北上誠一・加藤登・新井健一,魚介類の死後硬直と鮮度(K値)の変化,東海大学紀要海洋学部,4(2),2006,pp.31-46.
  2. 渡部終五他,水産利用化学の基礎,恒星社厚生閣,2010.